参照: ウェブサービス開発の現場におけるデザイナー不要論と5〜10年後の生存戦略
参照先の記事ではWebデザイナーが仕事を奪わる過程について言及されているので、ここではその背景を交えてデザイナーの在り方を模索します。
不要論が出るまでの経緯を考える
2000年前半から最近まで概観すると、Webデザイナーは長らく参入障壁が低い職業でした。イラレとフォトショが扱えて、簡単なHTML、CSSが組めれば名乗れる職種といっても過言ではなかったと思います。実際、多くの専門学校やセミナーがWebデザイナー輩出の流れを後押し、巷にWebデザイナーが溢れていきました(※1)。
皆さんもご記憶にあると思いますが、一時は本当に凄かったです(最近はどうか知りませんが)。こぞってセミナーや専門学校に群がり、紙媒体の人はWebに転向し、職業訓練校でもWebデザインの講座が開かれ、そういったところで訓練した人が採用面接に行く。傍から見ると「本当にデザイン好きなの?」と思えるようなポートフォリオをネット上で幾つも見た気がしますし、専門学校でのカリキュラムを見たときにはデザインの学術側面についての教育は皆無で唖然としたを覚えています。
さて、そうしたWebデザイナーの人口増加に呼応する形で、業界では制作に係る技術や情報流通の飛躍的な進歩が起こっていました。技術面ではオープンソースのライブラリが拡充や、コードで表現できるビジュアルの格段な進歩がありしました。HTML5やCSS3はその最たるものです。一方で情報流通面では、Web CreatorsやWeb Designingなどの紙媒体で収集していた情報がブログでさくっと手に入れられるようになりました。かくして、外的環境の進化によってビジュアルのテンプレート・コード化が進み、表面的デザインスキルが一般化し, Webデザイン(≠Webデザイナー)のクオリティが高まった(※2)。そういうのがここ10年の出来事だったと思います。
相対的に、Webデザイナーの役割は徐々に縮小していきました。本来はこういった技術進展によって生まれた余剰時間を別の研究に費やしてWebデザイナーとしての研鑽を積み、間口を広げるべきであったのに、HTML、CSS、Javascript、UI、UX、どれを見てもWebデザイナーの関与する領域が減り、専門職に取って替わられます。
Webデザイナーは狭義のWebデザインの世界から出られなかった。参照先にも言われているように「黒い画面」と仲良くなれず、かと言って圧倒的な世界観を生み出すこともできないWebデザイナーは、名目上はWebデザイナーのままオペレーターとして見られるようになっていったのだと思います(一部のWebデザイナーは早々によりハイコンテキストなUI/UXの世界へ移っていきましたが)。
その結果が参照先でも紹介されている「不要論」ですね。まぁ、なるべくしてなった、というところです。しかし悲観するところでもありません。良くある話です。産業人口が増えると技術発展とともに作業の合理化が進みロボットにとって代わられる、そんな構図と何ら変わりません。そしてそういう時には、ちゃんと考えて変わればよいのです。
ただそのためには原点に立ち返る必要がありますが。
そもそもデザイン・デザイナーとは何か?
Webデザイナーの今後を考える前に、原点であるデザイン・デザイナーに立ち返らねばならないでしょう。なぜなら、昔に比べて相対的にデザイナのニーズは高まっている中で、局所事象ながらもWebデザイナーが不要になるというからには、一般に言われるデザイナー像とWebデザイナー像に乖離があると考えられるからです。
さて、そもそも論として、デザインとは何でしょうか?
私の考えるデザインとは「問題解決」「機能性」「美しさ」を兼ね備えたものを生み出す営みです。故にデザインは非常に横断的な領域であり、デザイナーには膨大な知見・経験・洞察力の必要とされます。よく意匠と和訳されますが、「意」は意図です。意図とは狙い・計画であり、それは問題・課題の存在を前提にしています。その問題に解決を与えて機能性・美しさを備えたものを実現する、そういった個別能力と統合力を必要とするのがデザインでありデザイナーです。
では問題解決とは何でしょうか?これはビジネスによって異なりますし、レベルによっても異なります。
ビジネスによって問題解決が異なるのは説明不要でしょう。レベルというのは問題の起こっている階層の事です。最上のビジネススキームのレベルであれば、ビジネス全体を考えて取り組む必要がある。景気動向、競合、お金、リソース、時間。あらゆるビジネス要素を視野に入れる必要があります。一流のアートディレクターが取り組んでいる世界がここに当たります。
一方で、ブレークダウンされたレベルの問題・課題・意図であれば、ビジネスの方針・前提条件をきちんと把握しつつ、ブレークダウンされたスコープでの最適解を考え、形にすることがミッションです。多くの場合は「売る」ことや「人に伝えること」も必要とされますからマーケティングやコミュニケーション、心理や認知の学問領域についても知見を必要とします。
その上でさらに機能性や美しさも追及するのです。なんとも果てしない取組みです。
ただ重要なのは、歴史的に見ても、こういった果てしない取組み対して真摯に向き合ってきたからこそ勝ち得たポジションだという事実です。
Webデザイナーは何をしなければならないか
日本のWebデザイナーは先に説明したように、時代の要請によって短期間に大量に生まれたきた経緯がありますので、求められるものが即物的になってきたのは仕方のないことだと思います。ただ、前項で紹介したように本質的なデザイナーの職能を考えるとやはり足りていないというのも事実なのだと思います。
改めてWebデザイナーではなく、デザイナーという職種に立ち返ってみると「問題解決」「機能性」「美しさ」を追及できる能力をきちんと有し、それを提供する、という事を目指すべきだと思います。ざっと必要な能力を具体的にあげると
- ヒアリング力
- デザイナーならではの問題解決能力
- ビジネスへの理解(世の中のビジネスモデルへの理解)
- マーケティングへの理解(基本的なマーケティング論)
- コミュニケーションへの理解
- システムへの理解(実際に簡単なプロトタイプを作れるレベルはミニマム)
- 人間への理解(心理学、社会学、人類学)
辺りが必要スキルなのではないでしょうか?先に挙げたデザイナー像はこれらを統合できる職能人だと私は感じます。途方もない峰ですよね。でもそういう職業です。
なお参照先では、Webデザイナーの生存戦略において二つの在り方が提示されています。
- ウェブサービスのアートディレクター
- フルスタックウェブデザイナー
私もおおむね賛成ですが、イメージとしては先に紹介したスキルを身に着けていく、もしくはいずれかに特化していく上で通過するポイントであると思います。
他のデザイナーも対岸の火事ではない
最後に、これまでWebデザイナーについて言及してきましたが、今回のような論はプロダクトデザイナーについても当てはまり得る事象だと思っています。
Webが二次元を対象としたデザインで、参入障壁が低いからこのような状況に陥っただけで、技術の進化は三次元を対象とするプロダクトデザイナーも十分に脅かします。
クラウドファンディングでプロレベルの製品が出てこない保証があるのでしょうか?3Dプリンターを用いれば立体形状を洗練させることはだれにでも可能なのではないでしょうか? 現に一部のメーカーはでは既に在野のアマチュアプロダクトデザイナーを起用しようという動きもあります。
うかうかしているとデザイナー不要論まで出てくるのでしょう(※3)。
注釈
- ※1…ただこの流れは揶揄できない側面もありました。コミュニケーションの中心が紙からWebにダイナミックにシフトしていく中で、そのインタフェースを担うWebデザイナーの需要が高くなるのは必然だったからです
- ※2…Bootstrapとは言わないまでも、Webデザインテンプレートを主軸としたサービスは2000年前半には存在していました。
- ※3…ただ自分は、デザイナーはビジネス以外にも間口のある職種だと思っていて、文化保全などのハイコンテキストな側面でこそ社会に貢献できると思っている